向田邦子原作ドラマ 「父の詫び状」
昭和61年11月1日にNHKで放映されたドラマです。
脚本 ジェームス三木
演出 深町幸男
出演 杉浦直樹、吉村実子、長谷川真弓、沢村貞子、井川比佐志、市川染五郎、殿山泰司 など
あらすじ
太平洋戦争直前の昭和15年、田向一家は四国・高松から東京に引っ越した。保険会社の支店長の父・征一郎と良妻賢の母・しのぶ、長女・恭子を筆頭に一男三女の子供たち、祖母・千代の7人家族である。
祖母・千代は未婚の母として子供を産んだため、征一郎は父親の顔を知らない。そんな彼は親戚・知人の家を転々として育つが、保険会社に給仕として入社し、努力だけで支店長まで出世する。
彼は、独善的で厳格で怒りっぽかった。威厳を保つことがことのほか大事であり、彼だけを特別扱いしないと怒ったのである。
そんな彼のことを娘はいろいろ嫌だなとも思うのだが、千代の葬式での出来事が威張っている父を許せるきっかけとなるのであった。
この作品で特に忘れられない場面がある。
それは食卓でのシーンであった。
父親の前にだけ、鯛の尾頭付きが皿に乗っている。これを見た息子が理由を尋ねる。すると、父親が
「母さんの誕生日だ」
と言う。
このドラマの娘とほぼ同世代だった私の父と母には大いに受けた。
父親だけ尾頭付きだけでなく、一品多いということは日常茶飯事だったようだ。
これほど不合理な話はない。母親の誕生日に父親がお祝いの鯛の尾頭付きを食べる。
当の母親はめざしお尾頭付きである。
ドラマだから笑ってみていられたが、自分のこととなれば笑っていられなかったであろう。
当時の母親の年齢に近くなって改めて思う。
最近、世間で昭和30年代、40年代を懐かしむように、当時の父母の世代も、あのドラマをみて戦前を懐かしんでいたのかもしれない。
不合理でどうしようもなかったけれど、懐かしさを覚えた人も多かったのではないだろうか。